自分の表現に向かって
この絵は私が27歳の時に描いた絵です。
その当時、表参道はまだ、露店でアクセサリーや絵を売ったりする人達がたくさん並んでいて(今はもうそんなことできませんが)、
私も絵を見てもらおうと、描きためた絵を並べました。
その日、一人の40代くらいの男の人が急ぎ足を止め、じっと作品を見て
”絵を買いたいから今度事務所に来て”と名刺をくれたのですが
その人は、某有名80年代のアイドルの歌を作詞した作詞家さんだったのです。
後日、事務所で作品を見せたのですが、じっくり絵を見た後、男性はおもむろに
”やっぱりこの絵は君が持っていた方が良い、
きっとこの作品は君の道しるべになる作品だと思うから”
と言われました。
そしてこうも言われました。
”君にはありきたりの作家になってほしくないな・・・わかるかな?”と。
その時は私なんて恐れ多い・・と思っていました。
そんな素敵な言葉をいただいたけれど、あまり参考にしなかった私の絵は
大きく変わりました。
いまどきのカッコヨイ絵を目指してがんばりました。
当時の媒体にあふれていた絵やイラストと比べ、
見れば見るほど自分の絵はかっこわるくどんくさく感じていたからです。
いっけん、そんな行為は自分の本質的な部分からは離れていったようにも見えますが、この活動もとても価値があり、無駄ではありませんでした。
この10年は、あの当時足りなかったものを学ぶための、
大切な期間だったように思います。
そしてあの時、作詞家さんが残してくれた言葉は今もずっと消えない。
大切な言葉や人生において気づかなければいけないテーマはいつも、
何年経っても消えず、私がその壁を乗り越えるまで待っているようです。
今回の展示で私は、”準備は整った”という感覚を得ました。
あとは作品に本気で向き合ってただひたすら製作して行きます。
最初に私を見出してくれたあの作詞家さんにまたどこかで会えるだろうか。